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二人がここにいる不思議(2)

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生麦魚河岸通りに到着。人気がない道の家の影で覆われた部分を選んで歩く。
ampmでホワイトソーダ味のパピコを買って、1本ずつ分けていたら自転車に乗っていた男性に、「こんにちは!」と呼びかけられてびくっとする。たえちゃんが「し、知らないひとにこんにちはって言われた!」と2回言った。人通りが少ない路上でパピコで涼をとりながらぶらぶらしている女ふたりは、見るからにストレンジャーでトリッパー(合わせてストリッパー)だったのか。
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生麦魚河岸商店街の終わりははっきりしなかったけれど、徐々に終わっていった。

わき道を折れる。
角の八百屋の店先に積まれたさつまいもと、破った段ボールに書かれた「なるときんとき入りました」の文字に踊らされる。なるときんときがいくらなのかはどこにも書いてないのでギリギリする。欲しいけれども、よそ者と見破られて、法外な値段を請求されるかもしれないキョーフで私はなるときんときを手にしなかった。
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日焼けしてクリーム色と橙色になったテントの駄菓子屋の前面に出ているガチャガチャを見たとたん、たえちゃんは100円玉をおごそかにとり出した。その速さ。
出てきたのは”NUO”と書かれたフォームチューブで、「これかー」と肩を落とした。
蓋を開けると黒いスライムが出てきて、またも「中黒いし」とたいそう残念そう。NUOはたえちゃんのいとこに譲られることに決まった。その黒いのをひっぱっていたたえちゃんが「はっ!黒いの出たまま戻らなくなっちゃった!」と焦っていた瞬間もその次の瞬間も、商店街の入り口の門の上の時計は6時を指していた。1日に2回しか合わないのだった。
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端で折り返して、先ほどの駄菓子屋の前でお金をもっていないのか、ただガチャガチャのつまみをまわしていた男の子に近づくと、不審な顔をして見ないふりをした。手に短い鳩の羽を握っている。
キリンジの歌の一節を思い出して、それはこういうの。
”いつもそうさ どこの町でも いわゆる
名も知らないのが胸の エンブレムを放りなげたり
友達いない 土曜のサイレンは やたら長く唸るもんさ”

駅まで戻ってきてその傍の、一軒だけ開いていた料理屋『味童 天金』に入る。
「ごめんくださーい」と呼んでも誰も出てこない。中に入ると、店内は清潔にしーんとしている。
カウンターには誰も座っていない椅子がきっちり並んでいる。体が急速に冷えていく。

座敷の中を覗いたり、床の間の謎の置物にうなったりして待ったけれどもやっぱり誰も出てこない。
「ごめんくださーい」と呼んでもいいっこなしよ。
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食器がカチャカチャいう音がかすかに聞こえたので、階段を登ってみると、カウンターに一列、お店の人が並んで食事をとっていた。
彼らはゆっくりこちらを振り向くと、しばらくぼんやりと幽霊でもみるように私を見て、そのうち板前の男の人がひとりだけ立って、「どうぞ」と1階へと案内してくれた。
あの間と、全員がゆっくり振り向いた動作・・・自分が幽霊になったような気がした。
さすがに15時くらいにランチを食べに来る人はいないのかもしれないけれどでも、のれんだって看板だって出ていたのだ。
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お刺身定食。おいしかったけれども、少し高いよ。1600円。
私たちが食べている間、食事を終えた給仕の女の人が、じっと私たちの後ろに佇んでいた。

さて、これからどうしたものか、私たちは悩んで、悩みながら、足はクリッパーへと勝手に歩き出す。
by chimakibora | 2010-08-29 00:56 | 歩く・見る・遊ぶ